—1.滅茶苦茶な先生(その1)—

 確か、その教師は、私たちが高校2年生の時の物理教科担当の先生だったと思います。

クーラーは、おろか扇風機さえない当時の教室は、夏になると暑さと湿気で蒸しかえっておりました。

特に風の無い日は、授業を行うのが大変だったのでしょう。その先生は、教室に入るなりズボンと上着を脱ぎ、ステテコと肌着姿で授業を始めるのでした。

私達のクラスは男子生徒ばかりで、しかも校舎の端っこの教室でしたので、その様な事が出来たと思いますが、先生にとっては環境を整えこそ、より良い授業が出来ると考えていたかも知れません。

 普通の先生は、採点が終わったテスト用紙を一人々の名前を呼んで本人の解答用紙を渡すのがですが、その先生は、全員の採点用紙を、いきなり教壇の前に放り投げた上で、自分の用紙を探しなさいと言うのです。

そうするとクラス全員が自分のテスト用紙を探す為にワ―と教壇の周りに集まり、これは違う、これも違う等と言いながら必死に探すのでした。

 やっと皆が自分のテスト用紙を手にし、自分の席に落ち着くと、今度はテストの点数をあげてほしい人は、その理由を述べて、何点ほしいか申告しなさいと言うのです。

ある生徒は「たまには親に、いい成績のテストを見せてあげたい」と言うと先生は「それではプラス20点あげるから次から頑張りなさい」と言って、採点した点数の上から取り消し線を引いて、その上に新たな点数を書き入れました。一方、私は単に点数をあげてほしいと言うと先生は「はい、マイナス10点」私は逆に10点下げられる羽目になりました。

今から考えるとテストの点数なんて単なる数字であって、先生は、その機会を使って生徒が少しでも、やる気が起これば、それでOKとしていたかも知れません。

点数を下げられた私には、安易に結果を求めるなと言いたかったのでしょうか?

 今の時代、その様な事が出来るでしょうか? 同じ事をすると直ぐに色々な方面から批判が出てくる事は容易に想像できます。

従って、このような行動は、今の日本では想像さえ出来ない雰囲気があります。

逆に言えば、現在の日本社会は当時に比べ縮こまっているかも知れません。